- 代表取締役 藤原大督
結婚指輪の心打たれるエピソード
結婚指輪
長い間独身で婚活していた頃の私は結婚指輪にとても憧れていた。
既婚の友人、同僚に対してはもちろん、見知らぬ女性の指輪姿にさえも
「いいなぁー♡」と羨んでいた。
婚活がなかなか実らない私の眼には、結婚指輪は「結婚の冠」だった。
そんな私が幸いにも夫と入籍し、結婚指輪が出来上がってお店から受け取った日、
夫は「パパパパーン」と柄にもなく結婚行進曲のメロディーを口ずさみながら薬指に指輪をはめてくれた。私は大喜びをして、私も夫の薬指へと指輪をはめかえした。
結婚指輪をした夫が客観的に見えて男の色気が10割増しになり、さらに惚れるスパイラルへ陥っていた。
この結婚指輪に対する憧れや思いを抱くようになったきっかけを私は忘れていた。
結婚指輪をつけ始めた当初の私は、通勤中でも「私、結婚しました♡」という浮かれた気持ちがあったけど、それも3日で終了。
それよりも指輪をしたら、どんなに夫が遠くにいる日でも、淋しさが和らぐことを知った。
指輪は単なる貴金属ではなく、飾りの意味だけでするものではないと気がついた。
この時、はるか昔の記憶が鮮明に蘇った。
それは、私が看護師になったばかりの頃、80代半ばの男性が外科に入院していた。
彼は白髪でそれなりにヨボヨボしていたけど、目はパチリとしていて愛らしい人だった。
夜勤での巡視中、彼が「うがいしよう、でもコップがない」と言うので、
私がナースステーションから借りてこようとしたら、「いや、いい、手でやる」と笑って、両手をコップ代わりにうがいをした。
その時、蛇口に伸ばす彼の左手薬指に指輪が光っているのが見えとても驚いた。
私の田舎では指輪しているおじいさんなんていなかったから、親世代でもそうそういない。
「さすが都会の高齢者だなー!!オシャレー!」と思ったけど、
後にその男性のカルテを見て奥さんは既に亡くなっていることを知った。
都会の人だからとかお洒落とか、そんな理由で指輪をしている訳ではないんだ。
もう2度と会えない人といつまでも繋がっているんだ。
おじいさんからそんな風に聞いたわけでもないのに切なくなった。
当時、まだ22歳で結婚なんて微塵も意識していなかったから、
その男性の指輪を見て「私もいつか」なんて考えに至らなかったはず。
人生の伴侶を得た今、こんな風に思い出すのは、
まだ人生の深さを知らなかった私が、胸を打たれたからなのかもしれない。
私は夫より5歳年下だけど、何となく私の方が先に亡くなるような気がしていて、
そうなった時に夫が指輪をつけ続けてくれるかは分からないけど、
夫には結婚指輪をつけたあの日の、まだ少しは若かった私がとても喜んだことと、
私が夫をいつまでも変わらず好きだったことを、
暇な時にでもいいから指輪を見ては思い出してほしいと思う。
